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天空の使い(亀の恩返し)

天空の使い(亀の恩返し)

私は亀を助けて殺したことがあります。

小学校低学年の頃の、
自転車で習い事に向かう最中での出来事。

私の目の前を横切ろうとする亀が一匹おりました。

「下を向いて歩こう」の精神に目覚めていた私だからこそ、その存在に気づくことができ、うっかりひき殺してしまわずにすみました。

横に川があったのですが、
少し距離があったため、その付近の草むらに放ち、私はその場を去りました。

「あー、いいことをしたな」と、
今思えば別にどうということのない、ただ単に残虐なことをしただけの話ではありますが、この続きに関しましては後ほどお話しましょう。

といいますのも、
なんと夢想郷でその亀に再び会うことが出来たのであります。

すっかり大きくなって、
その姿は私の何十倍にもなろうかという、もはや亀というより船だろと、そう突っ込みたくなる私がそれをいう前にその亀は、

「私は船にもなるかめ、車にもなるかめよ」

と夢想語で私に話しかけてきたのであります。
夢想郷では他の生物も当たり前のようにコミュニケーションをとってきますので、それほど驚くことではありません。

そんなことよりも、亀さんよ、
「あの時はすまなかったねぇ」、そう私が謝罪しても何の返事もありません。

「何のことかめ?」
そう亀さんは白を切るのです。

私は続けて、
「私があの時しっかりと川まで運ばなかったがために、あなたは車に轢かれてペッッシャンコになってしまったではありませんか。私はお習字の帰り道に、あなたの変わり果てた姿をみて、ショックで寝込んでしまいましたよ…というのは大袈裟ですが、長年あのことが頭からこびりついて離れませんでしたよ」

亀は言いました。
「私がこのように巨体になったのは、あの時の仕返しに車というものを、今度は私が轢いてやろうと思ったがめよ。しかしこの世界には車はないし、たとえあったとしてもその車内にいる人間のことを考えると…やはり、何も出来ないかめよ」

しばらくお話をした後、
亀さんはお礼に、私を天空城に連れて行ってあげようといいました。

「えっ、先ほどは車と船にはなれると聞いたけれども、飛行機にもなれるのかい」
そう私が聞き返すと、

「そうではない、とっとと私から離れなさいということかめよ」

(なるほど…まだ人間に対する恨みはある。しかし、その忌々しい憎き人間の、しかも最初に出会ってしまった相手がなんと私であったということに、亀さんの計画が狂ってしまったのだ)

「わかりましたよ、亀さん」
そう私は言い残し、
その場を、
そして、
夢想郷から離れる決意をしたあの日。

亀さんの
「何もしないという」恩返しの温かみを、恐怖と共に味わった「沈黙のコミュニケーション法」なのでありました。

※ブログより引用

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